反社会的勢力を排除する!~定義を確認し、そのために必要な社内体制とは?|株式会社エス・ピー・ネットワーク
【第70回】 「常識」がズレることの怖さ
■ 暴排条例による勧告事例ほか
1) 東京都の逮捕事例(詐欺容疑)
暴力団関係者主催のディナーショーであることを隠して、東京都内のホテルと宴会場の利用契約を結んだとして、指定暴力団稲川会系組幹部とイベント会社役員ら4人が詐欺容疑で逮捕されています。会社役員は、暴力団の資金集めでの興業であることを「知っていた」ということですので、東京都暴排条例においても勧告の対象となるような構図であったと思われます。
本件に関して、ホテル側の対応についての報道はほとんどありませんが、当該イベント会社を反社チェックした結果、問題がなかったとしても、「真の受益者」(背後にいる暴力団)に関する端緒が一切得られなかったのか、実務面からは気になるところです。
今後は、一般の事業者においても、「真の受益者」の特定にどれだけ真剣に取組んでいたか(分かっていたのではないかとの疑いを解消するための努力)が問われるようになることが予想されます。また、どの段階で実態を把握したのか、イベント開催を中止させることはできなかったのか、といった排除実務の視点からの検証も求められるようになるものと思います。
2) 大阪府の勧告事例
神戸山口組系の組員にコンビニの駐車場を無償で貸したとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、40代男性のコンビニ店長に貸さないよう勧告しています。また、組員にも借りないようあわせて勧告しています。
報道によれば、店長は、組員が使用することを知りながら駐車スペースを無償で提供しており、よく買い物に来ていることから面識があり、組事務所に弁当の配達までしていたということです。
コンビニやガソリンスタンドを駐車場代わりに利用させる「利益供与」の事例や実際に勧告を受ける事例は全国的に多く、社内教育の重要性はもちろんのこと、例えばフランチャイジーにブランドを提供している事業者(フランチャイザー)においても、レピュテーションリスクに直結するという意味でも、正に自らの責務として主体的に取組む必要があります。
3) 岡山県の勧告事例
乗用車の名義を偽って車検を行い、運輸局に登録したとして、岡山県公安委員会は、岡山県暴排条例(利益供与の禁止)に基づき、岡山県内の車検代行業者と指定暴力団浅野組幹部に同様の行為をやめるよう勧告しています。
株式会社エス・ピー・ネットワーク
総合研究室 主任研究員 芳賀 恒人 氏
警視庁・道府県警の出身者をはじめ、企業危機管理に伴う法務・労務・財務・広報等の専門家で構成されるクライシス・リスクマネジメント専門企業。
反社会的勢力の見極めから排除実務、企業不祥事等に伴う緊急対策支援に至る「直面する危機(クライシス)」対策等に数多くの実績を有し、実践から導かれた理論に基づき「潜在する危機(リスク)」の発現を未然防止するためのコンサルティングと人的支援を展開する。従来の枠に留まらない危機管理的視点からの実践的なコンプライアンス体制や内部統制システムの構築を多くの企業で手がける。会社法の改正等の経済界の流れを先取りした先駆的企業危機管理論には、上場企業や株式公開を目指す企業だけでなく、金融機関や監査法人からの支持も厚い。
筆者は、企業のリスク抽出・リスク分析ならびにビジネスコンプライアンスを中心とする内部統制システム構築を専門分野とするリスクアナリストとして、これまでに、企業の反社会的勢力排除の内部統制システム構築・運用支援コンサルティングや排除計画の策定・対応支援等の業務を多数手がけるほか、「SPNレポート~企業における反社会的勢力排除への取組み編」を取りまとめ、犯罪対策閣僚会議下の「暴力団取締り等総合対策ワーキングチーム」での報告をはじめとして、企業の反社会的勢力排除に向けた取組みに関する講演等を数多く行っている。